極秘のおとぎ話

GHQが占領下の日本で接収した莫大な財産などを基に、密かに運用されてきたとされるM資金。この類の変種と思しき話が、今もなお、巷間まことしやかに流布されているようである。

過日、さる知人から、実におかしな話を聞かされた。政府から委託を受けて極秘の基金を管理しているという人物に会い、概ね次のような説明を受けたそうである。この基金は、基幹産業振興を目的としており、財政法に基づき、譲与を受けることを希望する一部上場企業の代表者に対して、一定の条件を満たせば資本金の10倍の資金が無償提供される。また、その企業の代表者を基金の管理者に紹介した一般の協力者にもその資金の3パーセントが謝礼金として支払われる。そして、これはM資金詐欺などとは異なり、企業側が手数料や準備金などを要求されることは一切ない、とのこと。因みに、あのKDDIの創業者である某氏もこの資金の恩恵に与った一人だという。

このような話は、もちろん、信じるに足るものではないことは言うまでもない。言下に戯言と断じるのが当然だろう。だが、この知人は、あろうことか、微塵も疑うことなく真に受けてしまい、一部上場企業の代表者に接触を図るべく関係者へのアプローチを始めたと言うのである。そして、後日の話では、新たに、譲与される資金が何と資本金の100倍に引き上げられ、それに伴い紹介謝礼金も同様に増額されるようになったとのことである。ここまでくれば、さすがに疑念を抱いてもいいはずだが、なおも弄ばれていることに気づくことはない。それどころか、インセンティブが強化されたことにより、モチベーションはさらに高まり、関係者へのアプローチに拍車が掛かかることとなる。しかし、方々の伝手を頼って奔走するものの、まともには取り合ってもらえず、一笑に付されるのが落ちである。そうした周囲との摩擦を重ねるなかで、おそらく徐々に確信は揺らぎ、改めて事の真偽を問わざるを得なくなったであろうことは想像に難くない。その後の経緯についてはあまり語ろうとはしなかったが、何とか目を覚ましたようである。                            

ともあれ、これで一件落着としたいところだが、そうはいかない。実を言うと、この知人は、今まで何度となく繰り返し様々な悪質商法や詐欺の類に騙されてきたのである。病的なほどにナイーブなのだ。いずれまた、誰かにたぶらかされ、懲りることなく、あらぬ夢を見るに違いない。